「ミヨッさんのダラムサーラずっこけ探訪記6」(三好孝さん)

ダヤンウルスの御意見番、枚方の三好孝さんが、日本に住むチベット人のノルブ(仮名)とその奥様(日本人)のモモエ(仮名)そして彼等の長男クリリン(もちろん仮名)の里帰りにくっ付いて、インドに行かれました。その旅行記が面白い!さあ、いっしょに楽しみましょう。


お父っあんの祈りの姿を見ていて、あんな数珠が欲しいと突然思ってしまった。

横に枝玉のある数珠が、大変気にいった。是非欲しい。買いに行こう。土産物屋に行く。まず数珠を出して貰う。

だが、日本から持って来た南天星壇の数珠より、秀でるものがない。モモエが「ダラムサラの方が、仏具屋さんもたくさんあり、良いものがある」と言うので、止める。そのかわり前々から欲しかった冬用のウオンジュクを物色する。気に入った色だったがサイズが合わない、サイズはぴったりだが色が気に入らない。あんな、こんなん、と男でも迷いが生じる。が、また楽しい。

結局、モモエの意見を取り入れ、鶯緑色のLサイズを買う。1,150ルピー、日本円で3,450円、Veay・Very安い。その上に、この鶯緑色のウオンジュクは、あとから色々活躍する。

あちこち冷やかしながら、時には彷徨いながら、ロセリンに帰ってきたのは13時半で。次にモモエが「昼食、どうしますか?」と聞くが、「先ほど、食べたばかりじゃないか」と答え、いらないと言う。

「それなら私、明日、アーグラの方に行きますので、車の手配してきます」

と、サッサと出掛けようとする。

ちょっと待ったモモエ、その前に石鹸を1個くれ!。実は、日本での打ち合わせのとき「お父っあんへの手土産に何がいい」と尋ね、「石鹸が良い、日本の香料入りの石鹸が、チベットの人は大変喜ぶ」との事だったので、昨晩、持ってきた石鹸を、お父っあんにプレゼントして喜んで貰ったまでは良かったのだが。1個か2個、手元に置いてあるとばかり思っていたが、全部渡したようでまったくない。

たかが石鹸ぐらい買えば良い、とタカを括って歩きながら捜した。だが売っていることは解ったが、だけど大判の洗濯石鹸は駄目だ。ボクちゃんの柔肌には合わない!恥を忍んで1個、1個恵んで下さい!

砂漠を彷徨ったような感覚を覚えたのと、明日の朝が早いと聞いたこともあり、シャワ—を浴びることにする。

バスタブは勿論ない。排水溝も特になし。しゃがみ込み式トイレの排水溝へ直接落とし込む。つまり浴室はバリアフリーなのだ。

お湯の活栓をひねる。少し水が出る。これは導入路の分だけで、そのあとからは。あぁ〜つっ!

いきなり熱湯だぁ!慌てて活栓を絞る。

が、熱湯はまだ続く。右の水の活栓をひねる。水がむなしく一条の筋となって落下する。

冷たぁ〜い!

頭部は非常に熱く、脛から下はとても冷たい。

そう、インドのホテルは混合栓がないのだ。給湯器からの温水は飽くまでも湯栓から、水は飽くまでも水栓から。実に単純明快なのだ。

貯めて置くものを捜す。実は、すでに用意されてある。15リッターのブラスチックス製のバケツがそれで、しかも付属に柄付きの小桶までも用意されている。何ゆえに15リッターかというと、これはあとから聞いた話しだが。給湯器の貯水量は10リッター、正味7〜8リッターで埋める水は3〜4リッター、合計12リッターの容量があれば充分だという訳だ。それから、そのバケツは、親切にも宿泊客のための、洗濯桶にもなるのだ。

2度3度、3〜4度、ドアをノックされ、私は目覚めた。熱湯を浴び因幡の白兎になった私は、いつの間にか寝入ってたようだ。

5時半を少し廻っている。ドルジェとノルブが、そこに立っている。ミヨッさん部屋替えをします、言うが早いかドルジェは、トランクを運び始めた。

昼間、モモエがちらっとその様なことを言ってたような気がしたが、すっかり忘れていた。時差ボケだ。

207号室に移動。その部屋は2階の左奥で、ベランダーを挟んで、通りに面している。「このホテルでは最高の部屋だ」、そうだ。

シングルベッドを並べ、ダブルに組替えてある。トイレの中をまず見る。あぁ、前の部屋と一緒だ。全館、同様の造りであろう。仕方がない、あきらめる。

トランクの荷をほどいていると、再びノルブ

「ミヨッさん、ご飯に行きましょう」と誘いに来る。

ノルブ達が宿泊する206号室で落ち合い、部屋を出る。

「三好さん、ダブル・キーをして下さい」

と、モモエが言う。

僧院の経営で宿泊客も仏教徒関係にとどめ、日常の管理も、しっかりしている。外部の侵入者は、過去にも現在においても、一度もないと言っているが「用心にこしたことはない」と、モモエは力説する。あぁ、ここでは我々は外国人なのだ。

歩いて3分のレストランへ行くのに、15分以上かかる。全部、ノルブの仕業である。

行き当たる人々、すべてに挨拶をする。余程、古巣に戻ってこれた事が、嬉しいのであろう。超、浮かれている。

——しかしだ、「お前達の喜ぶ顔が見たくて」とキザなセリフは吐かないが、いちいち私を紹介するなぁ。

そして、昼間にあった人とは、会釈ぐらいにしておけ!

コロニーで、一番おいしいと評判の「ツェタン・ホテル」のレストランに入る。ノルブの一押しの店で、「なるほど、ここやったら本格的?なチベット料理が食べられるのではないか?」と、思わせる雰囲気のレストランである。早速、メニューを取り寄せる。

「—————?」

恥を描きたくないので、モモエに廻し、「適当に頼んでくれ」誤魔化す。

お父っあんやチャンバーにも、メニューが手渡っているのだが、例のごとく尻ごみをするばかりで、「モモエに2人の分も注文しといてやれ」と、指図する。適当に人数分だけオーダーしたが、これから材料を仕入れに行って作るのではないか、と思うほど出てくるのが遅い。

「こんなもんですわ、チベット人のやることは」

と、あまり気にもしないモモエに、何と何を頼んだのか、退屈しのぎに聞く。

ミックス・モモ(キャベツ・たまねぎ・にんじん・ニラなどの野菜類と豚肉・鶏肉などが入った豚饅のように大きい蒸し餃子=朝、モモエが食したもの)とミックス・チャンメン(キャベツ・たまねぎ。にんじんに豚肉とマトン入りの焼きそば)と、ミックス・フライドライス(たまねぎ・長ねぎ・にんじんに豚肉・鶏肉、マトン入りの焼き飯)を主流に、お父っあん用にテントゥ(チベット風の煮込みきしめん、ただし太い麺を手で千切ってある)を、ノルブ用にビールを頼んだという。

「今日はミックスを頼みましたが、ベジタブルにチキン、マトンにチーズなどの単品もあります」、そして「この店はインド風?のカレーもやってますので、また食べに行きましょう」と、さらに続けて言う。
論より証拠、やっと出て来たものを見る。うあ〜あぁ、食べ切れるのかなぁ!

大食漢の私でも驚いた。大皿に大盛り、皿より零れているやつもある。2〜3人前かと思った。そうか、取り皿を頼んで何人かで、突付くのか?だがその考えは甘かった。それはナント一人前だと言う。

さらに吃驚するのは、モモとチャンメンが、各自の前に出没する。さすがにフライドライスだけは2皿だけだった。うぅ〜ん 長いため息が出る。「さぁーどうぞ」と、モモエがにっこり笑いながら言う。見るより食べろと言うのか。だが、手が出ない!

私は深いため息をついたあと、意を決して麺に手を付けた。

まずい!まずいよ、これは!本当に!日本でノルブの家に打ち合わせに行き、トゥッパ・チィツィとモモを2回、ご馳走になったが薄味で醤油を借りて食べたくらいだ。これはそれ以上に雑な味だ。大雑把すぎる!調味料が全然入ってない!僅かに胡椒をケチって入れてあるだけだ。プロ未満、セミプロ以上のグルメボクちゃんの口には絶対に合わない!

「こんなもんでっか、チベット人の作る料理は?」。

私は大声で叫んだ、「醤油はないか!」と。醤油に砂糖、塩に梅干、海苔に味噌汁、トランクの中にあるのに、ホテルへ今すぐ取りに帰ろう!

「私、持ってます。はい、これ」

ただちに行動しかけた私の目の前に、モモエが差し出したものは。

おお!これは?懐かしや、キッコマンの醤油。100円ショップで買って来たと言うが、今此処では1,000円以上の値打ちがある。テントゥをうまそうに食べるお父っあんに負けじと、醤油をかけて食する。なんとかイケてる。見るとノルブモモエも、醤油を使用している。やっぱり日本人は、どこにおろうとも「醤油」なんだ。その醤油をモモに、再び掛けようとした時。

「あっ、このモモにおつゆが付いてない!」

モモエが大声で叫ぶ。と同時に、店内が暗闇と化した。

「おぉ!停電だ!ろうそく、ろうそく!」

だが、誰も平然としている。他の客も慌てない。オロオロしているのは私だけ。そう、インドは慢性的に電力不足なので、地域ごと、定期的に電気が停まるのである。しかしモモエは現況の中でも、モモに付随すべき「おつゆ」にこだわっているらしく、店の奥に向かって「おつゆ」を請求する。お父っあんは食が細い。チャンバは遠慮がち。私は腹を壊さないように7分。

だが、モモエは喰う、喰う、喰う!TVチャンピオンの大喰い選手権のように、ただひたすらに喰らいつく。たとえ、それが「まっ暗闇の中」であっても。

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