「第52回日本印度学仏教学会」報告

日本印度学仏教学会の第52回学術大会が東京大学で6月29〜7月1日の3日間開催され、ハーンもチベット仏教関係の部会(30日午后第5部会)にそっと静かにお邪魔して、7名の発表を聞き勉強しました。お昼に文殊師利大乗仏教会の野村さんと赤門前のインド料理屋で食べたチキンカレーが辛かった。

おっと脱線している紙幅はない、さて。

第52回日本印度学仏教学会 各発表

チベットにおける Ratnavali の翻訳について

30日午後第5部会の第1番目は京都大学大学院の江田昭道さんの「チベットにおける Ratnavali の翻訳について」(ダイアクリティカルマーク省略、以下同じ)と題する発表でした。

二種類ある異なったチベット語訳の両方に同じ校定者の名があるのに訳者名は違う、という状況がどうして起こったのかを注釈書も合せてヴァリアントを拾いだしながら比較してその間の事情を推論するもの。この問題に先鞭を付けたミカエルハーン先生の論文へのアンサー論文です。

京大大学院の皆んなは義理堅い。応援に駆け付けるのはいいけど、同僚の発表が終わった途端どやどやと賑やかに会場から立ち去るのはやめてね。

『入菩提行論』第九章50〜52偈の解釈をめぐって

第2番目は大谷大学特別研修員の櫻井智浩さんによる「『入菩提行論』第九章50〜52偈の解釈をめぐって」と題する発表でした。

『入菩提行論』には著者名の問題や二種の章構成の異なったテキストなど色んな未解決の問題があるのですが、今回の発表は当該の箇所に関してシャーンティデーヴァ選述を疑う注釈(パンジカー)の著者プラジュニャ−カラマティの意見を、チベットの注釈者であるソナムツェモやプトン、さらにはタルマリンチェンがどのように解釈しているのか、という問題を探ったもの。

『入菩提行論』のテキストに関してはまだまだ問題が山積みです。

Atisa に帰される Satasahasrika Prajnaparamita の概説書について

第3番目は身延山大学の望月海慧さんによる「Atisa に帰される Satasahasrika Prajnaparamita の概説書について」と題する発表でした。

毎回望月さんの発表の資料は綺麗に製本されてて、しかも論旨が明確で感服するばかりです。資料には当該の文献の和訳やトランスクリプションも添えられていました(何か得した気分です)。

問題の文献は著者名が Atisa と記されている「十万頌般若」の読誦用略本(カンギュルやテンギュルには収採されていない)についての発表でした。アティーシャは毎日の勤行で般若経を唱えていたのかな。

サキャパンディタの dKar po chig thub 批判 — Thub pa’i dgongs gsal の所説をめぐって —

第4番目の発表は、東北大学講師の伏見英俊さんによる「サキャパンディタの dKar po chig thub 批判 — Thub pa’i dgongs gsal の所説をめぐって –」でした。

伏見英俊さんはハンブルグ大学のジャクソンさんのお弟子で、この分野では日本の第一人者です。

dKar po chig thub という言葉は「或る一つの修行ではらりと悟る」と主張する一派に対する批判的な表現です。『sDom gsum rab dbye』で展開されるこのサパンの批判をより明確にするため、『Thub pa’i dgongs gsal』の所説をつかって考えようというのが今回の発表です。

このサパンの批判が「摩訶衍説」のみではなくマハ−ムドラ−の説つまりカギュ派をも批判していることが鮮明になってきます。

『正法念処経』における rlung について

第5番目の発表は東洋大学東洋学研究所の石川美恵さんの「『正法念処経』における rlung について」という発表です。いつもながら石川さんの発表は、網羅的に精緻で体系的に緻密なリストが付属する発表です(こんな人の勉強部屋は綺麗に整理されているんだろうな、関係ないけど)。

さて、 rlung ルンという言葉は「風」と訳されたり「気」と訳されたりしますが、『正法念処経』の中にこんなリストがあるなんてぜんぜん知りませんでした。ルンが乱れると身体の中の様々な部分がいろんな蟲に食い荒らされて変調するというチベット医学でよく聞く話の材料はこの辺りにあったのですね。

それにしても今この原稿を書くために、虫が付いてる漢字を部首索引で調べていたら何か身体中が痒くなってきました。

ドォトゥプチェン・リンポチェ三世の浄土思想

第6番目の発表は摂南大学の梶濱亮俊さんの「ドォトゥプチェン・リンポチェ三世の浄土思想」という発表でした。

チベットの様々な人の浄土教関係の書を翻訳し続けている梶濱亮俊さんです。いつもながらマイペースです。驚いたのは質問をした人(日本人)が「ニンマ派の○○ですが、」と言ったことです。ちょっとびっくりしました。

ツォンカパが文殊の啓示から得た中観の理解について

最後の発表は東洋文庫の福田洋一先生の「ツォンカパが文殊の啓示から得た中観の理解について」と題する発表です。

ラマウマパという師に出会いその師を仲介役に文殊と直接出会って疑問点を氷解させた、という伝記の逸話は有名ですが、それじゃそれは如何なる点なのか?それまでとそれ以後にツォンカパの中観理解のどこが異なっているのかという問題を『サンウェ−ナムタル』『縁起讃』『レンダワへの手紙』『ラムツォナムスム』などを使って考察した論文です。

話は違いますが、善導大師に夢で出会い疑問点を解明したという法然上人の話しも有名ですが、学究者の神秘体験は歴史を変える力を持つものなのですね。

いやあ、どの発表も面白かった。ためになった。来年度はソウルの東國大学校で開催とのこと。どんなことになるのやら。

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