日本西蔵学会の第51回学術大会が佛教大学を会場として開催されました。

開催日時は10月25日(土)。成徳常照館の常照ホールを発表会場として研究発表が行なわれ、70名を越す参加者がありました。
午後1時からの研究発表にさきがけて、午前10時からはコンピューター利用懇談会が同じ会場で行なわれ、チベット文字処理やデータベースに関して活発な懇談が行なわれました。
ハーンはよく聞けませんでしたが、野村さんが紹介していたチベット文字ユニコード化には大いに興味を持ちました。早く実現(来年には出来ると言っていた)すればチベット文字環境は一挙によくなるはずです。
第51回 日本西蔵学会 各発表
藤井真聖(佛大大学院)「『タットヴァサングラハ』における様々な言語説批判について」
さて、研究発表ですが、先ず最初の発表は佛教大学大学院の藤井真聖さんの発表「『タットヴァサングラハ』における様々な言語説批判について」と題する発表でした。藤井さんはインドの論理学を専門とする研究者です。
今回の発表はシャーンタラクシタの『タットヴァサングラハ』とその注釈であるカマラシーラのTattvasamgrahapanjikaの16章を使って、かれらが言語とその対象に対してどのような理解をしていたのか、という点を研究したものです。さらにこの問題はチベットの論師たちに取り上げられ独自の展開もします。
しかし、依然として初期のゲルク派の祖師達の著述の一部にはチャパ流の弁論術とインド仏教論理学との混在があり、論理に対する宗教学的な興味にも微妙な差違が各人にあるように思えるのは私だけでしょうか?
石田貴道(駒大大学院)「後伝期における Vairocanaraksitaの役割について」
次の発表は駒大大学院の石田貴道さんによる「後伝期における Vairocanaraksitaの役割について」と題する発表。
ヴァイローチャナラクシタが著した『入菩提行細疏』のコロフォン等の記述を検討して彼の注釈態度を考察し、さらに彼と弥勒の五法との関連やドーハコーシャなどとの関係に見られるように、彼がカギュ教団成立に貢献をした学者である可能性に言及するものでした。
六鹿桂子(愛知大大学院)「形朶村チベット族の一妻多夫婚の形成理由」
3番目の発表は愛知大大学院の六鹿佳子さんの「形朶村チベット族の一妻多夫婚の形成理由」という題の発表でした。
形朶というのは字がこれしか近いのがないのでこれにしましたが「乃」ではなくて「几」です。シンドゥォン村という村、これは「四川省」と中国が呼んでいるところと「雲南省」と中国が呼んでいるところの境界線あたりにあります(ああややこし)。そこでの人類学的な調査の報告です。
よく知られているのは兄弟型ですが非兄弟型もあるようです。私は理由のほとんどが遊牧に起源すると思っていたのですが、身体的なハンディを持った兄弟と一緒に結婚するというケースも多いとのことでした。
有意義だったのですが固有名詞特に人名が漢字表記でしかも六鹿さんは中国語音でそれを読むのでややこしくて仕方ありません。扎西批措は「だすぴんづお」より「タシ・プンツォ」と読んだほうがタシさん喜ぶと私は個人的に思うのです。
岩尾一史(京大)「吐蕃の万戸(khri sde)について」
京大史学の”かくしだま” 岩尾一史さんによる「吐蕃の万戸(khri sde)について」という発表でした。
千戸(トンデ)という単位は良く聞くのですが、万戸と聞くとその10倍か、と思うのは私のような素人で、実状は3つか4つの千戸が集まって万戸を形成していたようです。
発表では吐蕃時代の敦煌の例を使って、吐蕃の万戸の規模、その長の権限と位階等について考察されていました。
彼の発表には風格があります。オックスフォードの国際チベット学会でもご一緒しましたが、楽しみな人材です。ちょっと雰囲気が暗い点はこれから私が崩してみせます。
伴真一郎(大谷大学大学院)「三藩の乱におけるチョネ(co ne)領主の軍事活動」
5番目の研究発表、大谷大学大学院の伴真一郎さんの「三藩の乱におけるチョネ(co ne)領主の軍事活動」
清朝に反発した呉三桂をはじめとする中国南部の漢人軍閥による反乱を「三藩の乱」とよびますが、その反乱の際にチョネの領主は清朝側について参戦します。このチョネの領主の活動が結果として青海ホショトと対立する形となり、後の清朝のカム・アムド支配の土壌を作ることになったという見解でした。
ただし、この時の参戦がやがてカンギュルやテンギュルを開版するまでの経済力を築くことになります。
赤羽律(大阪学院大)「Vimalamitra の Rim gyis ‘jug pa’i sgom pa」
休憩の後、大阪学院大学の赤羽律さんによる「Vimalamitra の Rim gyis ‘jug pa’i sgom pa」と題する発表がおこなわれました。
ヴィマラミトラ作の二つの文献 Rim gyis ‘jug pa’i bsgom don と Cig car ‘jug pa rnam par mi rtog pa’i bsgom don を解読し、それと『修習次第』や『因縁心論』との間に発見出来るパラレルを抽出して研究したものでした。
櫻井智浩(親鸞仏教センター)「『入菩提行論』般若章「空性の修習の階梯」をめぐって」
研究発表最後は 櫻井智浩さんによる「『入菩提行論』般若章「空性の修習の階梯」をめぐって」と題する発表でした。
『入菩提行論』と敦煌出土の『入菩薩行論』の両者で説かれる空性の修習の次第には微妙な差があって、その差違は「習気 bag chags」の断滅等に関して特徴的な違いを見せる。これらをチベット人の注釈たとえばギェルツァプの『rGyal sras ‘jug ngogs』などの資料をつかいながら考察したものでした。
合計7名の発表があり質議応答活発な議論が展開していました。
懇親会ではチベット人歌手のナムギェルラモさんのミニコンサートも開催され、50名以上の参加者で盛会でした。来年は立正大学での開催とのこと。来年も楽しみです。
