ダヤンウルスの御意見番、枚方の三好孝さんが、日本に住むチベット人のノルブ(仮名)とその奥様(日本人)のモモエ(仮名)そして彼等の長男クリリン(もちろん仮名)の里帰りにくっ付いて、インドに行かれました。その旅行記が面白い!さあ、いっしょに楽しみましょう。
2月13日、火曜日。昨日の老婆の件は、私の心の底に気掛りを作った。その重さは、眠られぬ夜を作り、朝日の出る前に眼を醒まさせ、チャンバとの会話のテープを聞いたり、中途半端な寝返りを打ったり、あるいはトイレに行ったりで、ベットの上で悶々とする。そして、熱いのか、寒いのか解らない感覚に陥り、寝袋を脱ぐ。
慈悲あるならば救えという菩薩道に反し、話しの始めより拒否したる心を持ちたることを反省しつつホテルの表へ出る。軒下に乞食、膝を抱える様に横たわっている。彼の人、このまま息耐えても自然なり。また、他家の蛇口を開け盗水するのを、「これがインドだ」と、言い聞かせても眠れなかった事に変わりがない。
坂道を150メートル歩く、タクシースタンドの広場だ。黄色と黒の“ミゼット様”が5台、停車している。ナンバープレートの順番が変わっていないところを見ると、昨夜から実車した様子は見られない。2人の運転手がヒマを持て余しているらしく、石投げをして遊んでいる。残りの運転手はいない。近くに住居があるのかもしれない。両替商屋?(銀行)の前には、もうすでにタバーン3兄弟が陣取っている。此処に着いた10日の日より観察しているのだが、ほぼ1日中、その場にいるようだ。何を見て、何を話し、何を楽しみに生きているのだろうか。相手のタバーン3兄弟の方は、私をどう見ているのだろうか?また柄にもなく哲学的になりそうなので、今朝は辞める。時計を見る。7時18分だ。ぼちぼちと、あっちこっちから人が集まり始める。少年達の衣服はテンでバラバラだが、少女達は白色のブラウスに灰色の上着、白色のショールを羽織っている。目鼻立ちの整った、インド系の良家のお嬢様だ。25分、スクールバスがやって来て、お嬢様達は出発する。少年達のバスは特になく、定刻に出るバスが彼らの足だ。29分、彼らも出発する。モモエは、「冬休みです」と言っていたが、これはチベット系だけに通用するだけで、その他インドやイスラム系は関係ないらしいことが、ここで解った。その場の雰囲気を肌で感じ取ったあと、次に興味を示したのは、パレー売りである。閉じられたシャッターの前でオバサン達が、それぞれの家で焼き上げた?パレーを売っている。1枚2ルピーである。朝食用に10枚買う。その方が計算しやすいからだ。パレーだけを売っているオバサンもいるが、中にはネジって油で揚げた8の字型パンを売っている人もいる。こちらの方は4ルピーというので、これまた計算しやすいように、5コ買う。こんなもの?つまり家庭で出来るものを買う人が居るのかと、興味深く見ていると、これがなかなか売れている。つまり日本人とまったく一緒で、スーパーやコンビニーで売っているのと、同じ感覚である。1人暮らしか、少人数家族か、はたまたズボラな主婦のいる家庭だ。薄い薄い、本当に薄いビニール袋に入れてくれる。
80メートルほど下った所に、チョーコン(灯明台)も薄暗いマニコロ(マニ車)を有する“マニ堂”がある。大手を広げても、まだ足りないところを見ると、直径6尺(1.8メートル)はある。戯れに昨日の老婆の願いが叶うように、と願を掛けるように廻す。だが、思ったよりも重い!有難いスンパル(経典)が一杯詰っているせいかも知れない。
もたつく私を尻目に、信仰心の厚い老婆や笑みを浮かべる好々爺達は、手馴れた様子で、いとも簡単に廻す。「オム・ヴァ・ジュク・サタ・フーム」、サガー(お守り)を身に付けた老人パワーは超、凄い!
部屋に戻って時計を見ると8時07分。もう「起こし」に行っても良いだろう。買ってきたパレーと英国王室ご用達の紅茶と味の素のパルスイートを持って、ノルブらの部屋に行く。驚いたことにノルブらは起きている。さらに驚くべきは、ノルブがシャワーを浴びている。そして、裸のままで家族中の全部の洗濯をしている。湯は勿論のこと足りない、水でも構わないのだ!(ちなみに私の体感温度では、その朝は25度くらいだ)それに洗濯用のごっつ〜い昔ながらの固形石鹸だ。お〜い、粉の洗剤は持って来なかったのかいなぁ!オレの部屋に洗剤を取りに来いよ、シート状になっていて一枚一回分だ、便利だぞ!モモエが、差し入れのパレーを見て感激してくれる。さっそく例のポットの湯をマイ・カップに入れてくれる。うまい!やはり“王室ご用達”だ。今度来る時はインスタントでも良いから、COFFEEを持ってこよう。海苔も梅干しもうまい!日本ならミスマッチだが、「ここはインド」。クリリンも、海苔をうまそうに喰う。
「三好っさんって、いつも、こんな贅沢しているんですか!?」
モモエ、本気ともお世辞とも取れることを言う。そりゃそうだろう、1個あたり300円はする紀州南部川村特産の南高梅の「特選の梅干し」だもの。ノルブ、その声に釣られて、バスタオルのまま出てくるなり海苔を3袋、梅干しを2個喰らう。この楽天家夫婦、昨日の事はすでに、すっかり忘れている。私の神経が細すぎたのか、はたまた私自身えぇ格好し過ぎるのであろうか?ノイローゼ゜気味になった私が、「お馬鹿さん」に見えてくる。気分的に楽になった途端、私にひらめきが起こった。モモエよ、このダラムサラで店を開くなら、このポテっとしたパレーに、ポテトサラダをサンドして、「パレー・ポテトサンド」として売りだしたら、好評間違いないで、ひとつ考えて見てくれ!ま、ともかく、今は腹を膨らませることに専念しょう!
ロウワー・ダラムサラへ、私とノルブとモモエとショールの4人で、買い物に行く。
タクシーの“ハイゼット様”(軽ワゴン車)との交渉は、やはりモモエの出番だ。デリーのチベッタン・コロニーのように1日中借切りにしなくても、片道だけでも「OK」だそうだ。アッパーとロウワーの間は距離もそれ程なく、アッパーからロウワーへ、ロウワーからアッパーへ、冬季以外は結構、お客さまがあるらしく、ここでは普通のタクシー並みだそうだ。前の助手席には、レディーフアストの精神を守り、モモエが座る。後部座席に、むさ苦しい男共の3人。好感が今ひとつのショールが隣りに座るが、これも止む無し。と言っても車に乗った途端、私は今朝の睡眠不足を取り戻すかのように寝てしまった。途中、岩角に車体をぶつけた振動で、眼が一旦覚めかかったが、またいびきを掻いて寝てしまった。次に起こされたのは五つもの道路が交差している場所で、どうもロウワーのメーンストリート広場であるらしい。
チベット系は勿論のこと、インド系、それにイスラム系の多種多様の人々が行き交いしている。そしてそれなりの生活文化があって、超!珍しい風景をデジカメで撮影しながら歩く。さすがに人通りは多く、コンノート・プレイスに戻って来たような錯覚に陥る。それもそのはず、ローサル(チベット暦の正月)の買い物客が近郊から、どっと押し寄せて来ているのである。我々も、「その内」に入るのであろう。ノルブ、下町の坂道をあちこち、我々を連れ廻す。私1人では、二度と来れない場所にまで踏み込んで行く。狭い路地の右左、それぞれに客を呼び込もうとする風景はアジア特有のものであろう。25分程、連れ廻されて行った所は、アングルの棚などを売っている棚屋兼金庫屋?(何故だか金庫も売っているのだ、日本でいうところの事務機器屋かもしれない)である。ノルブとショール、2人で雁首並べて、あぁ〜やぁ、こう〜やぁと言っている。勿論、チベット語オンリーだから私には解らない。もっとも、この2人の頭の中は複雑過ぎて、私には理解出来ないところが多々あるので、私、デジカメの撮影に勤しむ。ファインダー超しに見ていると、今朝方、出会った良家のお嬢様達が坂道を降りてくる。その仕草の愛らしさにズームイン。はにかむ姿にも、アップイン。お〜い!鼻垂れ小僧、お前は邪魔なんだ、どけ!駄菓子屋のおっちゃん、あんたも邪魔なのだがねぇ!服地屋の太っちょのオバサン、カメラ目線を送らないでくれ!散髪屋の大将、あんたもだぁ!撮影は1時中止!
おーい、ノルブよ、まだ首を捻っているのかい?入れる場所と入れる物の寸法を測ってきたのかい?なに!メジャーが無かったぁだと。それならば、ナイロンの紐にでも印をしてくるか、きちっと寸法取りしたものを、切り取ってくるかしろよ!モモエ、君が付いていてこのざまはなんだぁ!う〜ん!本当にチベット人は「おおまか」過ぎて、イカン!結局のところ、適当な寸法を割り出してL型アングルを金ノコで切断して貰う事になった。しかし、アングル屋の親父、全部バラしてからでないと切れないと言う。それならば、「時間はどれ位掛かる」と問うと、「たっぷり1時間は掛かる」と、ヌカす!あぁ〜「ここはインド、これがインド」なんだぁ!日本ならば電ノコか、切断砥石付きのグラインダーで、3分もあったらオンの字だがなぁ。なぁ〜に?「その間、他の店に行く」だと、そうか、う〜ん、致し方ないか。
また20分ほど歩かされて連れて行かれた所は、最初にタクシーを降りた所から2分ほど先の金物屋である。ノルブは其処で「蒸し器を買う」のだと言う。何に使うのだ、そんなもの!勿論、「蒸し器」だから、何かを蒸すのに使うために買いに来たのだろうけれども。しかし、なんの目的に使用するのか解らない?我が家でも蒸し器はあるが、年に一度か二度しか使わない。ノルブとショール、それにモモエまで頭を並べ、大きいの、小さいのと、真剣に討議している。しかもチベット語オンリーで。モモエが「モモを蒸す」のに使うのだと、やっと日本語で言う。そりゃそうだろう、日本ならば餃子は焼いた?もので、チャイナーやチベット圏では「蒸し餃子」が主流なのだから。そう!文化の違いなのだから仕方がないだろうと思う。豚饅もシュウマイも作らないのに、——たかが蒸しmogmogだけを作るために一番大きい三段重ねの「蒸し器」を買う、という行為が解せない。そんなにモモが重要なのか!まったく解らない?おーい、ノルブよ、ここに金ノコも売ってるぞ!先ほどのアングル屋で手間賃を払って切断させるより、金ノコの刃だけでも買って帰り、ショール達の部屋で「現場合わせ」した方が、よかったのではないだろうか!?結局、私の言わんとするところは、目的意識を持って段取り良くやれ!と言うことなのだ。まず最初に、今日、是非が非でも買わなければいけないもの、そして其の店。次に買うべきものと、其の店。この金物屋に、1番先に来て「蒸し器」を買い、次にガス台兼調理台兼「蒸し器」の保管棚兼その他食器類の保管場所となるべきアングル棚を買いに行くのが、順番なのだが、さすれば最低でも25分以上の無駄な時間がなくなると思うけどなぁ〜〜。疎外感と違和感で戸惑う私は、怒りを込めて抗議したい!——だけど、チベット語が出来ないのだ。——まぁ、下手な漫才よりズッーとおもろい、黙って、みと〜こう(もん)。
